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居酒屋を出たハジンとソヌは、並んで歩いていた。
車で送っていく、というソヌの申し出を断り、ハジンはバスで帰ると譲らなかった為、近くのバス停までの道のりを2人で歩くことになった。
時折頬を優しく撫でる風が酔い醒ましにちょうどよく気持ち良かった。
特別言葉を交わすこともなかったが、先日のような気まずさは感じず、むしろ、バス停までの道のりがとても短く感じた。
バス停に着くと、ハジンは待合イスへ座り、その隣にソヌも腰かけた。
そんなソヌを見て、ハジンは不思議に思い、
「なぜ座るんです?」
と聞くと、ソヌは当然のことのように、
「バスに乗るまで見送る」
と答えた。
「すぐバスがきますから、待ってないで大丈夫ですよ」
「すぐだから、バスに乗るまで見送る」
ソヌの口調から頑なな意志がみて取れ、ハジンは、それ以上何か言うことはやめた。
ハジンは小さなため息をつき、辺りを見回す。
すると、待合イスの背後に貼ってあるポスターが目にとまった。
ハジンの視線に気づいたのか、ソヌは、
「興味があるのか?」
と、ポスターとハジンを交互にまじまじと見ながら尋ねた。
ポスターには、"高麗時代文物展"と書かれていた。
1年前に高麗時代のことを思い出してから、高麗に関する資料や文献を読むことはなかった。
ヘ・スが亡くなった後のことを知りたいと思いつつも、高麗で過ごした時間や、皇子たちのことを思い出すと辛くなり、どうしても自分から調べることができなかった。
だが、ソヌと一緒なら――。
ハジンが、ポスターで日程を確認すると、今週末が最終日になっていた。
「社長。一緒に行きませんか?」
「え?」
ハジンは、自分でも驚くほど、すんなりとソヌを誘っていた。
「これまでのお礼です」
「お礼なら、今日奢ってもらった」
「今日は、緊張をほぐして勇気づけてくれたお礼です。まだ先日助けてもらったお礼もしてませんし、初めて会ったときのお詫びもしてませんから、少なくてもあと2回はお礼をしないと」
「お礼なら、私の行きたいところに行くものだ。これは、君の行きたいところだろ」
ソヌが少し呆れたように言うと、ハジンは、確かにそうですね、と苦笑した。
一緒に行く理由としては、苦しかったかもしれない。
ハジンは少し残念に思いながら、もう一度ポスターへと目を向けた。
前へ進むためにも、もうそろそろ、高麗時代のことや、あの人のことに向き合うべきなのかもしれない。
ハジンが、そう考えていたとき、
「――行くか?」
背後から、声をかけられた。
「え」
驚いたハジンは勢いよく振り返り、ソヌをじっと見つめた。
「一緒に、行くか?」
もう一度問うソヌは、ハジンとは目を合わせず、少し気恥ずかしそうだった。ハジンは遠慮ぎみに、
「…いいんですか?」
と聞き返す。すると、ソヌは、ふっと笑って
「君が行きたいって言ったんだろう」
と言った。
「行きます。行きたいです」
ハジンは、ソヌの気が変わらないうちに、と連絡先を交換し約束を取り付けた。
そして、ちょうどバスが到着し、ハジンは別れの挨拶をしてバスに乗り込んだ。
座った席の窓からちらりと外に視線を向けると、歩いてきた道を引き返していくソヌの後ろ姿が見えた。
ハジンは、その姿を眺めながら、手に持っていたスマホをぐっと握り締めた。
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ののの (金曜日, 17 7月 2020 20:32)
いつも楽しみに読んでます。イジュンギさんの大ファンで、その中でもこの麗の作品は一番好きで、その後の話を探しては読んでます。今はなかなか二次小説に出会えなくなったので、また楽しみができてとっても嬉しいです!
管理人 のあ (土曜日, 18 7月 2020 08:23)
>ののの さん
コメントありがとうございます。
私は、最近『麗』を観てイ・ジュンギさんのファンになったので、まだまだファン歴は浅いですが、『麗』は私の中でもとても大切な作品の一つなので、こういったコメントをいただけると、とても嬉しいですし励みになります!
これからも楽しんでいただけるよう頑張りますね(*^^*)