麗~after story~ ⑬(10/26 更新 未完了)


×××××



博物館前の交差点で、入り口近くに立つソヌが目に入った。

彼が放つ独特な佇まいは際立っており、遠くからでもよく分かる。


いつものスーツではなくラフな格好のソヌに、ハジンの心は、より一層高鳴り、無難なワンピースを選んだことを少しだけ後悔した。


その時、ソヌがハジンに気が付き、軽く微笑んだ。

ハジンの胸はまた高鳴り、そのせいか、うまく微笑み返せたかどうか分からなかった。


ハジンは、青信号に変わった交差点を小走りで渡った。


「おはようございます。待ちました?」

「私も今着たところだ。行こうか」

先を促すソヌの後ろを、ハジンは2、3歩遅れてゆっくりと歩き出した。



高麗文物展には、高麗の時代にあったとされる美術品や書物、民画などが展示されていた。


――ここには、あの人の歴史が刻まれている。

――あの人に会える。


そう思うと、ハジンの足はすくみ、体が震えた。

そんな体を押さえつけるように、両手をぎゅっと強く握り締めた。


「どうした?大丈夫か?」

ソヌの声で我に返ったハジンは、心配そうに顔を覗き込むソヌに慌てて返事をする。

「あ、はい。大丈夫です」

ハジンは奥歯を噛み、目を閉じてから軽く深呼吸した。


――大丈夫。大丈夫。


そう自分に言い聞かせ、静かに一歩を踏み出した。



ハジンは、展示物一つひとつにゆっくり丁寧に目を通し、それらを心に刻んでいた。

隣を歩くソヌもそんなハジンについて特に何も言わずにペースを合わせ、目の前の展示物と説明書きを交互にじっくりと眺めていた。


そして、1年前に高麗時代のことを思い出すきっかけとなった、風俗画が展示されているブースにたどり着いた。


遠ざけていた過去が、鮮明に甦る。


ペガ皇子様と呑みあかした日々も。

ウン皇子様とケンカした日々も。

ジョン皇子様と過ごした最期の時間(とき)も。


ウク皇子様に恋した日々も。


――ソ皇子様を愛した日々も…。


遠い過去のようでもあり、つい最近の出来事のことのようでもあるその思い出を、なぜ今まで遠ざけることができたのだろうか。


辛い思い出もたくさんあったけれど、こんなにも大事で大切で、愛しい時間を過ごした日々だったのに…。


ハジンは、瞳から溢れ落ちそうになる涙を周囲に気づかれないよう、そっと手で拭った。



ふと気がつくと、先ほどまで隣にいたソヌがいなかった。

ハジンは周囲を見回しソヌを探す。

すると、ソヌは一つの風俗画の前に立ち、じっと見つめていた。


ハジンはそっと近づき、静かに声をかけた。

「社長…?」

ソヌの反応はなく、変わらず目の前の風俗画を見つめていた。


――聞こえていないのだろうか?


そう思い、もう一度声をかけようとしたとき、ハジンはソヌが見ている風俗画に気づき、息をのんだ。


ソヌが見ていたのは、1年前にハジンも見た、あの人の肖像画だった。

皇子としてではなく、王になり光宗(クァンジョン)として、凛と真っ直ぐに前を見据えているあの肖像画。


この風俗画を、ソヌはなぜこんなにも見つめているのだろうか。

なぜこんなにも、ハジンの胸はざわつくのだろうか。

まさか、ソヌと何か関係があるんだろうか。


まさか――。


瞬間、ソヌの足元がよろめいた。

「社長っ!」

ハジンは咄嗟に手を伸ばしソヌの腕を掴んだが、支えきれず、ハジンも2、3歩ふらついた。


「大丈夫ですか?」

「…あ、あぁ…」

ソヌは、大丈夫だ、と続けたが、その顔は顔面蒼白で、とても大丈夫そうには見えない。


「とりあえず、ここを出ましょう」

ハジンはソヌを支えながら、急いで博物館の出口へ向かった。



博物館を出て、とりあえず、どこか座れそうな場所はないかと辺りを見回す。

しかし、そんな場所も見当たらず、仕方なく目の前にある街路樹の縁石へとソヌを座らせた。


「社長、本当に大丈夫ですか?」

「あぁ…」

そう返事はあったものの、顔色は良くなく、やはり大丈夫そうには見えない。

「何か飲み物買ってきますね」

ハジンが、近くのコンビニへ向かおうとしたとき、

「ソヌオッパ!」

背後から、ソヌを呼ぶ声が聞こえた。


声のした方を振り向くと、そこには驚きの人物が立っていた。


彼女はハジンには目もくれず、一目散にソヌへ駆け寄ると、即座に腕を絡めた。


「やっと見つけた」

「ヨナ…どうして?」


ソヌにヨナと呼ばれた彼女は、間違いなく、あのヨナだった。


陛下の皇女であり、ウク皇子様の妹であり、あの人の妻だった――あのヨナだ。




(続きます)



 

 

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